昨年度に引き続き、実感コースとして「EVについて研究してみよう」というテーマで開講しました。今年度は府内の女子校に通う高校2年生が来てくれました。
今年度も引き続き、CQ出版社が販売しているCQキット・シリーズ「CQ EVミニカート・キット“基本セット”」を用いて、EVやHEVに用いられるブラシレスDCモータのモータ巻線設計を行いました。ただし、昨年度と同じ事をしても面白くありません。今年度は設計したモータを用いて、CQ出版社が開催しているレース大会に参加すること、およびモータ2個を用いたゴーカートの駆動に挑戦しました!(文責:博士後期課程2年 福永崇平)
▼CQ EVミニカート・キット“基本セット”(CQ出版社):
https://shop.cqpub.co.jp/hanbai/books/I/I000255.htm
▼CQ ブラシレス・モータ&インバータ・キット 標準セット版(CQ出版社):
https://shop.cqpub.co.jp/hanbai/books/I/I000055.htm
まずはモータについてのお勉強。世の中で用いられているモータにはどんな種類があるのか、また今回の研究で対象とするブラシレスDCモータがどのような原理で回転しているのかを学びました。次に実際の走行要求から、作製するモータの巻方・巻数などを決定する巻線設計を行いました。今回は高速走行を目指し、50km/hとしました。このとき、必要な始動トルク(※1)から、3直2並4巻としました。
またモータを動かすために必要なインバータ(※2)のはんだ付けにも挑戦することになりました。と言っても、これについてはおうちでの宿題。学校の部活動の中で、はんだ付けをしてくれました。
筆者コメント:数学は大事です。ほんとうに。(筆者の心からの声)
第一回で巻線設計したモータについて、φ0.5mmのエナメル線を使って実際にモータを作製しました。モータはエナメル線をスロットに巻きつけるだけではなく、巻いた後の端線処理も必要になります。これらの処理を終え、モータベンチ(※3)に固定して実験!研究室で以前使っていたインバータ、および電源をつなぐスロットを回すと…無事回転!自分で設計・作製したモータ回転させることができました。
また残った時間で、途中だったインバータのはんだ付けを行いました。
筆者コメント:楽しい楽しいはんだ付けタイム!
前回に引き続き、インバータのはんだ付けおよび動作確認を行いました。はじめはうまく動きませんでしたが、はんだ不良を直すことで、問題なく動作しました。やったね!
次に前回作製したモータの特性を評価しました。モータの特性としては、静特性として巻線抵抗および巻線インダクタンスがあります。これはモータにおける損失や、実際に回転するときの比例定数を表しています。また動特性として、回転数とトルクの関係(負荷試験)、電流とトルクの関係(拘束試験)、回転数と逆起電圧の関係などが挙げられます。ただモータを作製するだけでなく、作製したモータの特性が設計通りになっているかも検証する必要があります。
特性評価の結果、トルクが設計値よりも大きく下回っており、実際にゴーカートに搭載しても始動しないという問題が発生しました。これは巻線が細く必要な電流が流せなかったことが関係しています。そこで目標速度を40km/hに、また始動トルクの目標値を大きく再設定して巻線設計を行い、3直2並19巻としました。モータの作製は、次回までの宿題です。
筆者コメント:楽に作れるほど扱いが難しいのです。
宿題で作製していたモータの動作確認を行いました。端線処理等を行い、モータベンチで動作させたところ、問題なく動きました。モータの特性評価でも、所望の特性が得られることを確認しました。
そしていよいよ、ゴーカートに実装!!テストランをさせようとしますが…。なんと逆転!モータ巻線の巻方を逆にしてしまったことが原因です。対策として1)タイミングを制御するセンサ(この場合ホールセンサ)の配線を入れ替える、あるいは2)制御プログラムを書き換える、という2つが挙げられますが、今回は後者に挑戦することにしました。(なおこの後、無理に動かそうとしたところ、インバータから火があがりました。。。)
筆者コメント:抵抗から火を噴くのは初めて見ました。あわや大惨事。。。
まず初めにインバータの修理から。一部の部品を取り換えて動作確認。また使用するパワー半導体デバイス(※4)の放熱のため、ヒートシンク(放熱体)を取り付けました。インバータ修理後は、インバータに搭載している制御部(マイコン)のプログラムを書き換えることで、逆転していたモータを正転させることに成功しました。
修理したインバータを改めてゴーカートに搭載し、レース大会に向けて操縦の練習。軽快なスタートとともに巡行するものの、(結構勾配のある)上り坂の途中で異臭を放ち停まる車体。放熱が十分ではなく、パワー半導体デバイスが故障してしまいました。より放熱性能が高いヒートシンクをつけるものの、再び動かなくなるインバータ。いよいよ一週間後にはレース大会本番。果たしてレースまでに動くのか…!?
筆者コメント:レースまでに全力で修理します!!!
目標の一つであるレース大会当日。作製したモータを用いてレースに参戦です!(※インバータはこれまでのダメージで基板自体が痛んで修理不可能だったため、既存のものを使用しました。ごめんね。)
順調な走り出し。懸念されていた最初の坂も上り切った。そのまま、一周、二周とラップを重ねていく。見守る研究室のメンバー。見つめるパパのカメラ。30分の耐久レースもいよいよ終盤、このまま走り切ってくれ!!
…と思いきや、ラスト4分、7週目に突入したところで異変が。あれ、なんか遅くない?見守る面々の不安は的中し、最初の坂を上り切らず、停止。そのままレッカーされてしまった。トルクと速度をそれなりに両取りした結果、規定された電池では容量不足となってしまいました。次回挑戦の際には、電池容量を考慮した走行パターンの考慮が必要となりそうです。
筆者コメント:レースお疲れさまでした!
<GoPROで撮影したレースの様子>(準備中)
〇スタート直後
〇レース序盤
レース大会も終わり、残りの時間をどうするか。それは受講生が最初に希望していた、モータを2つ取り付けることだ!
約1か月の間に我々は準備を行ってきました。まずはモータの取り付け準備。市販されているカートに取り付けられるモータは1つのみ。反対側にもモータを取り付けるため、鉄板の加工を依頼し、昨年度末に研究室で購入していた器具を使ってTIG溶接を行いました。また受講生には、レース大会で景品としていただいた低損失コアを使って同じ仕様のモータをもう一個作製してもらいました。
モータ・インバータを2セット用意し、車体に固定。そして始動!ボリュームによる調節と不格好ながらも、問題なく動かすことが出来ました。
筆者コメント:一発でうまく行ったのが地味にうれしい。
SEEDSプログラムもいよいよ最終回。研究は最後のまとめとして、学内外での発表資料を作成および練習しました。研究は、発表するまでが研究ですね。
先生の指導を受けながら、資料を修正していきます。自分にとっては当たり前のことでも、それを何も知らない人に伝えるのは、本当に難しいですね。我々研究者も日々心掛けています。そして最終発表に向けた資料が完成。その日まで、練習あるのみですね。
あっという間に半年間の研究が終わりました。高校生の貴重な日曜を使っていただいて研究してきた半年間。何か少しでも得られたものがあるなら、私たちもうれしい限りです。
筆者コメント:半年間お疲れさまでした。またどこかで。
※1:停止状態(=初速度ゼロ)から動き始めるまでに必要なトルク。
※2:モータ等を動かす際に必要な電力変換装置。
※3:モータの特性を評価するためのベンチマーク一式。モータの固定が主な役割。
※4:MOSFETに代表されるスイッチ素子。これを組み合わせてON/OFF状態を制御することで、電圧や周波数を制御する。